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絵を描くように、色とりどりの刺繍糸と布で表現―衣装作家・神尾茉利さん

2010年12月06日02時01分
色使いやアイデアなど、刺繍という手法から独特の世界観を広げ、表現し続ける衣装作家の神尾茉利さん。彼女の作品が織りなす世界には、物語が見え隠れするようです。「アートを身近に!」と、自らの作品をアクセサリーなどのファッションアイテムとして提案したり、ワークショップ開催にも意欲的な神尾さんに、楽しいお話を伺いました。

神尾茉利さん/Mari Kamio

1985年生まれ、神戸出身。多摩美術大学にてテキスタイルデザインを専攻し、在学中より染織や刺繍の技法を用いた作品を発表。大学中退後に作家活動を本格化。現在は純粋な表現としての作品制作に加え、あらゆる場面をテキスタイルで演出すること、例えばCDジャケットやライブ衣装、書籍における挿絵などを目標として活動。また定期的に「おたのしみ会」と呼ぶワークショップを企画。現在は京阪神エルマガジン社発行「SAVVY」の占いページに毎号作品を掲載中。
ブログ:http://syyskuu.exblog.jp/

頭で考えず、純粋な気持ちで、作品の前で身を委ねてほしい


作品「ひみつのはなし」の一部。
動物たちは撮影のアイテムとしてオファーを受けることも。
―衣装作家になられたいきさつを教えていただけますか?

さまざまな場面をテキスタイルで演出したいという思いから、衣装作家として活動をしています。衣服の形に限らず「テキスタイルによる演出」を「衣装」という言葉に込めています。

中学生の頃、偶然観た映画で石岡瑛子さんやワダエミさん達が活躍されている「コスチュームデザイナー」という職業があることを知りました。その映画が、既製服以外の衣服との初めての出会いでした。それまでも衣服には興味があったのですが、画面の中で衣服が感情や状況を演出していることに衝撃を受けて……。ドキドキしたのを覚えています。

それで、「映画の衣装デザインがやりたい」と思い美術大学に進学したんです。大学在学中に、ひびのこづえさんの衣装を舞台で拝見し、舞台衣装にもとても惹かれました。というのも、衣装が観る人だけでなく、着る人の内面をも演出していることを感じたからです。

―身につける人の感情を、洋服が表していると?

衣装を着ることが役者の演技の力になれていると思ったんです。ひびのこづえさんの衣装にはそれほどの力があって、衣装の力ってすごいんだなと思いました。それまで「衣装」に興味があると感じていたけれど、実際は「演出」に興味があるのでは? と気づかされたという感じでしょうか。それが大学時代でした。大学では染織に関わる専門知識を学び、純粋に「布」が持つ力に興味が湧きました。それ以降、「布(テキスタイル)」と「演出」が結びつくような作品を目指して制作しています。

―現在手がけられている作品にはどのようなものがありますか?

動物を刺繍で表現した『ひみつのはなし』は取材していただく機会が多く、多くの方に知っていただけている作品だと思います。『ひみつのはなし』は「もしも動物と話せたら」がテーマ。いろんな動物の動きや表情を刺繍で表現しています。

―動物たちの表情や動きが独特ですよね。かわいいだけじゃないっていうか……。

ネコや鳥も好きですが、野生動物も好きなので、写真集というか、図鑑などもよく眺めています。本能で動く動物達のしなやかな動きや、獰猛な部分にも興味があります。


作品展の様子。左は西宮市「nitte」にて、右は西宮市「manon」での風景。どちらも2011年開催。

―神尾さんの作品といえば、刺繍のイメージが強いですが、刺繍をされるようになったきっかけはありますか?

大学では染織(染めと織り)をしていたのですが、染織には大きな釜や大きな織り機が必要なんですね。クオリティを上げるためには道具はもちろん、広い場所も必要です。自分の生活環境でクオリティを上げることができる手段が刺繍だったので、刺繍という表現方法が自分には合っていると思ったんです。ただ、刺繍という手段はそんなに重要ではなく、どちらかというと色が重要だと思っています。だから、「刺繍をしている」のではなく「色で描いている」感じ。もともと美術に興味があり絵画を学んでいました。その一方で布という素材を好きでした。絵の具を筆で描くか刷毛で描くかというのと同じ感覚で、私は糸で描くか布で描くかを考えています。でも実は、私の作品は刺繍ものばかりではなく、布を接ぎはいだものや、小さな織り機で織ったものもあるんですよ。

―刺繍は独学とうかがっています。

はい。独学です。刺繍をするようになったきっかけは「想像させたい」という思いです。これは「演出」の部分にも共通します。舞台における衣装が「説明」ではなく「演出」であるように、観る人は十人十色の想像を抱くと思います。1つの考えや答えを提示する作品ではなく、観る人がそれぞれ違う想像を描いてほしいと思っています。『ひみつのはなし』もその1つです。だから、刺繍は表現方法のひとつですね。


(左)芦屋 SPACE Rにて開催中「旅のクチュール展」。
(右)大阪のギャラリーショップ「tapie style」で行った「ひみつの表彰式」の様子。

―『ひみつのはなし』の動物たちから広がって、オーダーメイドやセミオーダーも受注されていたそうですね。大人気だったとうかがっています。

はい。今はもうしていないのですが、おかげさまで好評でした。

―オーダーをスタートされたのはなぜですか?

『ひみつのはなし』を衣装作品にできないかなと考えたときに、動物たちを頭に着けられないかなあと思ったんです。そこから、「身に着けてもらえるといいな」と思って……。アート作品って、美術館に行かないと見ることができない、ギャラリーに行かないと手に取ることができないものというイメージがありますよね。アートをもっと身近に感じてもらうためにはオーダーメイドもいいかなって思ったんです。それで、動物の刺繍をネックレスやブローチにデザインして、オーダー&セミオーダーを始めました。ファッションアイテムとして手にしてくださる方、神尾茉利のアート作品として持ってくださる方、いろいろな方がいてくださってうれしいですね。作品を日常の一部として楽しんでほしいので、身近に感じていただけるのがいちばんです。よく「アートは分からない」とおっしゃる方がいますが、頭で考えず体感してほしい。純粋な気持ちで、作品の前で身を委ねてほしいですね。

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神尾茉利  , いなだみほ  , 刺繍  , 衣装  ,

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