絹糸の美しさに魅せられて―刺繍屋 与太郎さんの繊細な手仕事
2008年12月04日23時01分完成度の高い作品を生み出す秘訣は、下絵からのこだわり
「見返りうさぎ」は眼に光が宿り、頬は紅を刷いたようにうっすらピンク色。
そうですね。どの工程も大切だし、日々の生活や、読んだ本にインスピレーションを受けて、作品を作り上げていくので、毎日の暮らしそのものが大切なんですけど……。しいて言えば、下絵づくりでしょうか。自分で描けないものは繍えない、と思っているので、下絵はすべて手で描きます。何度も何度も描き直し、検討しながら、美しい形を探していきます。そうやって辿り着いた形に、絹糸の立体感と艶を与えるのが与太郎の刺繍です。
―糸も細いですし、作品自体が小さいですよね。それゆえの難しさってありますか?
それは、あまり感じたことはないですね。ただ、微妙な色づかいをするので、作業は午前中の光のなかでするようにしています。自然の中で見る色が、いちばんですから。
―デザインで意識していることは?
いかにも“和”というのではなく、“和”から少しずらした感じで、モダンさか、甘くならないかわいらしさをさりげなく取り入れるようにしています。
―コウモリの図案などは、珍しいなと思いました。
でも、このコウモリは、和装の世界ではなじみの深い動物なんですよ。着物や帯にも使われているおめでたい柄なんです。
制作に欠かせない材料や道具、資料。刺繍糸の色数は現在500色くらい。 |
―与太郎さんの作品のこだわりとは?
さきほども言いましたが、完成度の高い手仕事をしたいと思い、この小さな帯留めとブローチに辿り着いたんですね。そして、その作品作りの全行程をきっちりと管理したいという思いもありました。作品は表現ではありますが、自己表現ではありません。こういう手仕事のものっていうのは、いっそ作り手が見えない方がいいと私は思っているんですね。アーティストというより、アルチザン、職人の世界ですから……。
―今後の活動のご予定は?
いまは、植物、花の顔、動物の顔などを描いていますが、今後は人の表情を描いてみたいなと思っています。
(取材/いなだ みほ)