絹糸の美しさに魅せられて―刺繍屋 与太郎さんの繊細な手仕事
2008年12月04日23時01分刺繍屋 与太郎さん
刺繍作家。京都の芸術系大学を卒業後、着物や帯にまつわる刺繍に携ったのち、2007年に独立。作品は、京都の「割烹なかじん」、京都全日空ホテル内にある「ワダブンアートファブリック」で扱われるほか、自身のホームページでも販売している。ホームページ:http://yotaro.silk.to/
絹糸の繊細さを最大に生かした、細密な刺繍を追及して
与太郎さんの作った帯留めの数々。
―絹糸の刺繍に出会われたいきさつを教えてください。
はい。なんとなく、ぼんやりと学生の時期を終えてしまい、そのあと、何をしていいか分からなかった頃、アルバイトなどをしながら、図書館通いだけは続けていたんですね。
―読書がお好きなんですか?
小さい頃から本は大好きでした。図書館には毎日のように通っていて、さまざまな本を読んでいました。図書館の書架を巡っていたときに、ある本で、絹糸の刺繍というものがあることを知りました。そして、なぜだかどうしてもやってみたいと思ったんです。
―それが、刺繍との出会いですか?
いえ。刺繍は、もっと小さい頃から……。私は、京都生まれ、京都育ちなので、着物や帯といった和装の刺繍は、ほかの街に住む方よりは身近だったかもしれません。それに、「ないものは作る」という家庭だったので、手仕事には親しんでいましたし。でも、その図書館で手にした一冊で、絹糸の美しさに魅せられてしまった、とでも言えばいいでしょうか。特別に刺繍が好きだったわけではないのですが、その絹糸のえもいわれぬ美しさに魅かれ、学べる場所をさがし、6~7年の間、基礎的な技術の習得に努めました。とある工房に通っていたのですが、そこは主に着物や帯を扱う仕事場でした。年月を重ねるごとに、絹糸の繊細さを最大に生かした、より細密な刺繍を追及したくなりました。
―そこから、刺繍の帯留めを作り始められたのですか?
刺繍の勉強をしていくに連れ、できるだけ小さな世界に手をかけていくことが、自分らしいといいますか、その方がよりクオリティの高い手仕事を追求できると思ったんです。きっと、方向性を考える必要が生じた時期だったんでしょうね。
(左)図書館で出合った江戸時代の刺繍の本。「この頃の刺繍に憧れます」 (右)小学生のときに刺繍した布かばん。当時から手仕事が普通に生活の中にあったそう。 |
―独立されて、現在どれくらいですか?
2年前、2007年にひとりで始めました。構想から仕上げまで、細部まで眼の行き届く制作スタイルをとりたい、そういう思いもあって……。ひとりですべて目配りすることに限界はありますが、数は少なくとも、ごまかしのないものをお届けできると思います。
―与太郎さんの刺繍って、表情が豊かな気がします。
ありがとうございます。何度も縫って糸を重ねて立体感を出したり、同じ白い絹糸でも微妙に違った色を何本も使って、ニュアンスを出す工夫をしています。“繍いあげた花々が咲き匂うように、生きものたちに生命が宿るように……”とホームぺージにも書いているのですが、「うさぎの刺繍がされてるな」じゃなく、「あ、ここにうさぎがいる!」っていうふうに感じてほしいんです。ちょっと表現が難しいのですが……。
絹糸の輝きに魅せられて生まれた、繊細で美しい作品たち。 |