甘く儚い、ロマンティックな物語を感じる石けん― ハタヤ商会
2009年12月06日17時01分今回は海の見える部屋で暮らすAYAさんに、手作り石けんにまつわるあれこれや、日々の暮らしで愛するものについてお話をうかがいました。
ハタヤ商会/sapone di HATAYA
2006年にスタートした、AYA(松本亜弥)さん×HAT(畠中優子)さんによる手作り石けんユニット。大人っぽくロマンティックな中に少しの遊び心を秘めた、物語を感じさせる作品が人気に。現在、大阪・中崎町の雑貨店JAM POT、神戸・元町の子供服のお店Si Tu Veuxなどで商品の取扱いがあるほか、NHK文化センター京阪守口教室などで石けん教室も行う。ホームページ:http://saponedihataya.petit.cc/
海の見える部屋で、ピアノと猫と石けんと
見た人は願い事が叶うという“ブルームーン”の言い伝えに
インスピレーションを得た「ブルームーン石けん」。
使うごとに月が満ちてゆき、やがて満月になる。
相棒のHAT(畠中さんのことで、現在産休中)と、私の名前、AYAを組み合わせて「ハタヤ」。古き良き時代に、外国向けに日本のものを輸出していた小さな貿易会社、みたいなイメージで名付けました。ロゴをよく見ていただくと、イタリア語で「Ultimo oriente=極東」という言葉も入っているんですよ(笑)。2006年から、この名前で活動するようになりました。
―石けんづくりをはじめたきっかけは何だったんですか?
10年ほど前に体調を崩して入院したことがありまして、そのときに「自分のカラダは自分でケアしなきゃ」と強く思ったんです。食べ物はもちろんですが、肌につけるものも自分に合うものを手作りできたら、と思ったことがきっかけですね。スキンケア全般を手作りにすることで、肌自体も強くなった気がします。
―コールドプロセスという方法で作られているんですよね。
今、手作り石けんの世界では主流の方法で、できるだけ余分な熱を加えずに、低温でつくるのが特徴です。熟成に1ヶ月はかかりますが、素材の持ち味を最大限に生かすことができるといわれています。教室の生徒さんの中には、自分で手作りした石けんのマイルドな使い心地に驚かれる方が大勢いらっしゃるんですよ。
―石けん作りで気をつけていることなどはありますか?
原材料が何かということは見た目ではわからないものですが、使い手のことを考えて、良質な素材と真摯に向き合うことを心がけています。素材の選び方や組み合わせ、丁寧な作業はもちろんですが、日々の暮らしがちょっとだけ楽しくなるようなデザイン性も大切にしています。
それから、一般の人から見てどうなんだろう?という客観的な視点をつねに見失わないようにしています。その点、二人でやっていることでバランスがとれているのかも。たとえば、材料にすごくマニアックなオイルを使っているとしても、その良さがお客様に伝わらないと意味がないですよね。特に、私は凝り性でゴリゴリの職人気質なところがあるので(笑)、頑なに自分の世界を押し付けるのではなく、自分にないものもフレキシブルに受け入れる、いい意味でのゆるさを持っていたいですね。
(左)バルコニーから見えるまぶしい初夏の海。毎日、この風景を眺めながら作業しているそう。 (右)愛用のピアノ。譜面台にあるのは、憧れのグレン・グールドが好んだというバッハ。 |
―アイデアはどういうところから生まれるのでしょう?
上手く言葉にするのがむずかしいのですが、やっぱり私は綺麗なものにふれるのが好きなので、そんな記憶やイメージの積み重ねがうまく結びついたときに生まれるのかも。いつも生活のほとんどを、石けんのことを考えて過ごしているんですよ。
それから本が好きなので、図書館で週に10冊は借りています。本屋さんで買う本も含めると、かなりの冊数ですね。音楽家だと、ピアニストのグレン・グールドが大好きです。好きすぎて、今まで口に出して人に言えなかったくらい(笑)。最近、我が家にもピアノがやってきたので、鍵盤にはいつくばるような彼の独特のスタイルを真似てこつこつと練習しています。
(左)グリム童話の「かえるの王子様」をテーマにした石けんは、テトラ型のパッケージに入れて。 キスをしたら王子様になるかも?と遊び心をかきたてられます。 (右)AYAさんの愛読書たち。左から、グレン・グールドの書簡集、ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』のデッサン集、 西脇順三郎の詩集『ambarvalia』。好きな詩からイメージを膨らませて、石けんを作ることも。 |