甘く儚い、ロマンティックな物語を感じる石けん― ハタヤ商会

2009年12月06日17時01分

ものづくりで大切なことは、足し算と引き算のさじ加減

―素朴ともファンシーとも違う、独特の空気感がある世界ですよね。

たぶん、ものづくりを仕事にする人って「世の中に自分が欲しいと思うものがない、だからつくろう」っていう人が多いと思うんです。ただ、ものづくりをしていると、つくること自体にはまってしまって、過剰に何かをプラスしてしまいがちです。足し算するのは簡単だけど、引き算していくのはむずかしい。でも、「手間をかけていない」ということと、「シンプル、洗練」は違うと思っているので、「素朴」という言葉に逃げないものづくりができたらいいな、とは思ってますね。

―今までに人気が高かった石けんはどんなものですか？

「エスケープ」という透明な蝶のコンフェッティを埋め込んだ石けんです。透明な石けんは、すごく手間がかかるのですが……。儚げなものに自分を重ねたり、儚げなものをどんどん使ってしまうというサディスティックな気持ちを味わったりとか。「妄想が広がるところがいい」とおっしゃっていただいています。

それから、昨年作った「エデン」は香りがいいと好評でした。これには、りんごと無花果からとったエキスを入れたんですよ。少し古めかしいというか、土っぽいアーシーな香りに仕上げました。最初はかたちも無花果の葉っぽくしたら……と思っていたんですけど、最終的にはあえてシンプルに、白×グリーンの2層構造になりました。

―アダム、もしくはイヴ気分になれそうな石けんですね！（笑）

お客様にも「ロマンティック」とか、「香りづけが個性的」と言っていただくことが多く、うれしかったですね。泡立てたときに広がる、「香りの層をデザインする」というふうにいつも考えています。自分の好きな組み合わせをあれこれと考えるのは本当に楽しい作業なので、教室では皆さんに何とかしてその喜びをお伝えしたいと、「おたくになってほしい」といつも言っているんですよ。

（左）取材を心配そうに見守っていた愛猫・琴糸ちゃん。 「勝新太郎の大ファンなので、彼の『悪名』という映画に出てくる女性の名前からつけました」 （右）熟成中の石けんたち。

―スタート時から現在までのあいだに変化したことは？

商品として石けんを作っていく中で、ようやく自分たちらしさが固まってきたのかな、と。お客様から「ハタヤ商会さんらしい」とおっしゃっていただくことで、「ああ、こういうのが私たちらしいということなんだ」と改めて気付くことも多いです。

―今後、新たにやってみたいことはありますか？

今までの集大成として、いつか石けんまわりのあれこれを詰め込んだレシピブックを作ることができたら、と夢見ています。まったくの初心者から経験者の方にもアイデアのヒントになって、自分で使うだけでなく、贈りものとしても楽しんでいただけるような……。今後、HATの産休でしばらく販売できる石けんの数は減るかもしれないのですが、ゆるやかに、でも少しずつ活動の幅を広げていけたらと……そう、思ってますね。

商品を卸している海の近くのショコラティエ、ラ・ピエール・ブランシュ。プライベートでもよく利用しているそう。 きれいなブルー×イエローのファサードが南仏のようでかわいらしい。

（取材／野崎泉）